このタイミング・この説明で値上げを表明する読売新聞はやっぱりすごい

2018年12月12日の読売新聞朝刊の一面に、次のような、読者への呼びかけがあった。

読者のみなさまへ 本紙購読料改定のお願い

1月から月ぎめ4400円に

新デジタルサービス2月開始

読売新聞 2018年12月12日朝刊 大阪本社版13S1面。

見出しだけではわかりにくいが、要は値上げするということだ。

値上げという行為は、どの商品にとってもデリケートなものだ。利益を改善する特効薬であるが、環境によっては買い手が離れてしまって逆効果になる場合もある。

そのため、値上げという行為は、買い手に納得してもらえるように丁寧な説明が必要であり、環境とタイミングが重要である。

そんなデリケートな値上げを、今回、読売新聞は、どのようなタイミングと環境で、どのように説明したかを紹介したい。

1.読売新聞購読料改定の値上げ社告の内容

今回の内容は、朝刊の1面に、

(詳しいご説明は2面に掲載しました)

読売新聞 2018年12月12日朝刊 大阪本社版13S1面。

とあり、2面の詳しい説明を見ると、

1面社告でもお知らせしましたように

同上、13S2面。

と書いてあった。読者への値上げの呼びかけは、「社告」と表現するのかと、勉強になった。確かに、自社の値上げを伝えるのに「記事」と表現するのはちょっとおかしい気がするので、「社告」の表現がしっくりする。

その1面社告では、値上げの内容は、

読売新聞社は1月1日から、朝夕刊セットの月ぎめ購読料を現在の4037円(消費税込み)から363円引き上げ、4400円(同)に改訂いたします。

読売新聞 2018年12月12日朝刊 大阪本社版13S1面。

とのことで、その説明として、本体(税別)価格は、1994年1月以来、据え置いてきたが、全国の販売店の経営難と従業員不足、ガソリン価格の上昇、等を理由に、「誠に心苦しい」が値上げに「ご理解をお願いいたします」とのことだった。その他の内容は、2月から新デジタルサービス開設の紹介、一部売りの場合や「読売KODOMO新聞」等の改定価格などが紹介されていた。

2.値上げするなら夕刊を辞めようかな

「値上げするなら夕刊辞めようかな。いくらになるのだろう」

と思ったが、私が今回受け取った新聞の社告には、朝刊(宅配)だけの場合の金額は書かれていなかった。

私の住んでいるところは、朝夕刊セットの地域なので、地域によって社告を使い分けていると思われる。朝刊のみの地域版の社告の内容については想像するしかないが、そちらでは朝刊のみの月ぎめ購読料が書かれていたのだと想像できる。おそらく、セット地域版と朝刊のみ地域版とで、社告での金額表示の内容が異なっているのだろう。

ただ、朝夕刊セットの地域で夕刊のみを辞めても、朝刊のみの地域の金額とは同じにならない。朝夕刊セットの地域での朝刊と、朝刊のみの地域の朝刊は、編集が異なるため同一ではないからだ。

だいぶ以前に聞いた話では、朝夕刊セットの地域では夕刊抜きの価格は販売店で決めているが数百円しか安くならず、その程度の差なら、夕刊も取った方が得、という認識だった。

ただ、一方で、夕刊を取らない人もある程度いることも、何となく感じていた。この点に関して印象に残っているのは、お年玉付き年賀状はがきの抽選発表だ。いつだったか覚えていないが、成人式のハッピーマンデー化なども絡んで、抽選発表翌日が朝刊休刊日の日と重なったかなにかで、朝刊がなかった日の夕刊に抽選番号の数字が記載されていた記憶がある。その数日後に朝刊にも抽選番号が再掲されていたので、朝刊のみの人から番号が載っていないと苦情があったのかな、と思った記憶がある。

朝刊のみの地域なら、夕刊がないという前提なので、朝刊に情報が集約されてこんなことは起こらないのだろうが、最近は、私の住む朝夕刊セット地域でも、夕刊に載っていた内容と全く同じ記事が、翌朝の朝刊に載っていることはよくある印象だ。速報性を重視して一部地域で重複したというよりも、夕刊を取っていない人への配慮を強く感じさせ、「朝夕刊セットの地域でも夕刊を取っていない人が増えてきているのではないか」と想像させられる。

いずれにしても、今回の社告では、朝夕刊セット地域で夕刊を抜いた場合の説明が一切ないので、価格については販売店に問い合わせるしかないだろう。

朝夕刊セット地域で「値上げするなら夕刊辞めようかな」と思っている人に、社告では値段を知らせない仕組みができていることが、宅配の新聞社はすごい。

3.新聞の軽減税率と値上げのタイミング

来年2019年10月には消費税が8%から10%に増税される予定だが、新聞(週2回以上の宅配)は軽減税率が適応されて税率は据え置かれることになっている。

新聞の軽減税率に関しては、新聞業界の長年の悲願であり、読売新聞でも、社説他、紙面を最大限に利用して、「新聞は民主主義と活字文化を支える重要な社会基盤」などと繰り返しアピールしてきた。

そのアピールしていた意義は、今回の増税と軽減税率適応で、より強調されることになるが、その増税前に、値上げをすることは、いろいろな憶測を呼ぶこととなる。

私はそうは思わないのだが、

  • 軽減税率が適応されるのに、値上げするのは便乗値上げでは?
  • 「重要な社会基盤」と言いながら値上げするのは自覚が足りないのでは?
  • 百歩譲って増税で諸経費が増加するのは納得できるけど、増税9か月前から値上げするのは早すぎるのでは

といった批判が出かねない。私はそうは思わないのだが。

軽減税率が適応されるのに、増税前に、このタイミングでいきなり翌月からの値上げを表明する、読売新聞はやっぱりすごい。

4.当日の読売新聞スポーツ欄

読売新聞が値上げを表明したその日のスポーツ欄には、プロ野球で、広島からFAで巨人入りした丸選手の入団会見の記事と、チームの主将である坂本選手の契約更新交渉の記事があって、金額の内容がそれぞれ、

(丸選手は)5年総額25億5000万円で、年棒は4億5000万円

(坂本選手は)来季は1億5000万増の5億円

(金額は推定)

読売新聞 2018年12月12日朝刊 スポーツ面 13S25面

とあった。

親会社が値上げをするタイミングで、傘下のスポーツ選手の高額年俸をスポーツ面で記事にする読売新聞はやっぱりすごい。まるで、この年俸のために値上げしましたと受け取られかねないタイミングだ。

正確な数字が分からないので、おおざっぱな計算になるが、1ヶ月の読売新聞値上げ代363円(朝夕刊セット)に、読売新聞のホームページで確認できる発行部数、

17年11月現在の朝刊部数は876万5366部(日本ABC協会報告)。

https://info.yomiuri.co.jp/media/yomiuri/index.html(参照2018-12-13)

を単純に掛ければ、約31億8千万円になる。

これは、値上げを表明した日のスポーツ欄で出ていた数字の丸選手の5年契約総額と坂本選手の年棒を足した数字の30億5000万の数字に近くなる。(金額は推定。)

もちろん、値上げ額はセットによって異なり、部数も1年以上前の数字で、セットごとの部数も不明なので、正確な増収額はわからず、さらに、購読契約1ヶ月という数字と5年総額・1年年棒を比較するのは無理がある。ただ、

値上げを表明したタイミングの同じ紙面で、傘下のスポーツ選手の高額年俸を載せる読売新聞は、やっぱりすごい。

5.値上げ理由に「最低賃金」と「ガソリン価格」

読売新聞では、今回の値上げ理由の一つに、人件費の上昇を上げ、その証拠のデータとして、最低賃金(全国加重平均額)の上昇を挙げている。(しかも詳しい説明をした2面では、グラフ付きで)。

だが、最低賃金の上昇を理由に挙げるのは、説得力に欠ける。というのも、その同期間、名目賃金はもちろん、実質賃金さえも同じような増加はしていないからだ。

今回の読売新聞の説明と同様に1994年を起点としている表が見つけられなかったが、検索して出てきた、ちょっと古いが、読売新聞にとっては文句のつけにくい官邸の資料の表を参考の一つに。

首相官邸ホームページ、”国内雇用状態と各国の名目賃金の推移”。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seirousi/dai2/siryo3.pdf(参照2018-12-13)[リンクが不明だが、アドレスから「経済の好循環実現に向けた政労使会議 」平成25年度第2回(平成25年10月17日)の資料の一つだと推測される]

つまり、この期間で賃金はそれほど増加していないのに、最低賃金の上昇をもって、人件費が上昇したと読売は主張していることになる。

しかも、読売新聞は、

改訂に伴う増収分の一部は、新聞製作費などにも充当させていただきます。本社は長年にわたって、新規採用者数や人件費の抑制、(後略)

読売新聞 2018年12月12日朝刊 大阪本社版13S2面

といっている。

この表現で、読売新聞社が、新聞販売店の人件費と本社の人件費を、明確に分けていることが分かる。

同じ人件費なのだから、本社も最低賃金の上昇を理由にしてもいいはずなのに、本社の人件費については最低賃金を理由にしていない。わざわざ別の理由をつけるのは、本社の人件費は最低賃金とは関係ないという意識があるのではないか。

これでは、値上げ理由で最低賃金を強調する読売新聞は、新聞配達の人を最低賃金で縛り付けて、しかもそれを当然だと思っていて、最低賃金が上がったから法律上仕方なく賃金を上げないといけないから値上げする、と言っているように見えてしまっても、仕方がないだろう。

また、値上げ理由として、輸送費の上昇として、レギュラーガソリン価格の推移も詳しい解説をした2面でグラフ付きで載せている。

ただ、

なお、2004年4月以前は消費税抜きの価格(外税価格)

読売新聞 2018年12月12日朝刊 大阪本社版13S2面のグラフの注釈より

といった注釈があったり、また、同日発表されたレギュラーガソリン価格が、

資源エネルギー庁が発表した石油製品の店頭小売価格週次調査によると、12月10日時点でのレギュラーガソリン1リットル当たりの全国平均価格は前週比2.0円安の149.3円となった。

e燃費、纐纈敏也@DAYS、”レギュラーガソリン価格、7週連続値下がり 7か月ぶりの149円台へ”、2018年12月12日(水) 15時32分。https://e-nenpi.com/article/detail/317106/(参照2018-12-13)

など、価格下落傾向にあるというニュースが入ってくるなど、せっかくグラフを載せたのに、説得力のないものになっている。さらに、ガソリンを使わずに自転車で配達する人や、この期間のガソリン車の燃費の向上などを考慮に入れれば、本当に、ガソリン値上げが理由なのか、疑問が出てくるのは仕方がないだろう。

わざわざグラフを出しているのに、逆に疑いをかけられてしまう読売新聞はやっぱりすごい。

6.やっぱりすごい読売新聞の値上げ

以上のように、読売新聞の今回の値上げは、タイミング的に

  • いきなり来月から値上げ
  • 来年10月からの増税前に値上げ
  • 来年10月から軽減税率適応なのに値上げ
  • 新デジタルサービスは2月からなのに1月から値上げ

であり、ピンポイントでは、

  • 同じ日の紙面で傘下の球団の選手に巨額の契約金額を支払う記事内容
  • 当日にレギュラーガソリン価格が低下傾向にあるニュース

というように、なぜこのタイミングで、と思わせてしまうところが、読売新聞はやっぱりすごい。

また、人件費上昇の理由に、わざわざグラフ付きで「最低賃金の改定状況」を挙げて、新聞販売店の従業員を最低賃金で働かせているかのように思われても気にするどころか、本社は別だというかのようにさらっと述べるところは、読売新聞はやっぱりすごい。

私はそうは思わないのだが、

「読売新聞は、”出会い系バー報道”でわかるように、官邸からもらったニュースを報道するだけでいいのだから、取材費を減らせば、値上げしないでいいのではないか」
「いっそのこと、単純化して、
・ラジオ・テレビ番組欄
・『コボちゃん』
・ジャイアンツの結果
・新聞小説
・気流欄
・『安倍首相の一日』
・チラシ、クーポン
に絞れば、むしろ値下げしてもやっていけるんじゃないか」

と、言う人がいてもおかしくない。私はそうは思わないが。

正直、貧しい生活の私にとって、今回の値上げは、大いに苦しい。だが、これまで読売新聞を何十年も熟読してきた、愛読者としては、歯を食いしばってでも、この値上げに耐えていきたい。そして、この値上げにより、読売新聞が、責任をもって、御用新聞ではなく、民主主義の基盤として紙面づくりに取り組んでいくことを、強く望み、期待したい。

私はそうは思わないのだが。

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