「森友問題」「不動産鑑定等による調査報告書」の整理とまとめ(2020/05/17)

架空小説「仮名手本森友学園」

2020/05/14(木)、公益社団法人大阪府不動産鑑定士協会により、「森友学園案件」についての調査報告書の発表があり、その翌日には、全文が公開された。

森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査委員会から調査報告書を受領いたしましたので、概要版を公表いたします。

公益社団法人大阪府不動産鑑定士協会、”森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書”、2020-05-14。https://rea-osaka.or.jp/info/weblog_1589213453.html(参照2020-05-16)

2020年5月14日付けで公表しました森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書の全文を公表いたします。

同上、”森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書の全文を公表いたします”、2020-05-15。https://rea-osaka.or.jp/info/weblog_1589431927.html(参照2020-05-16)

このような調査が行われたことを、私は寡聞にして知らなかった。こんなブログ記事を書いておきながらお恥ずかしい話ではあるが、こうやってまだまだ知見が得られるのはありがたく、この問題の奥深さを語っている。

当ブログでは、二年ほど前に、問題の土地について、ネットで得られる情報から、評価額や埋設物処理費用などの変遷の時系列表を簡易的に作ったことがある。その時の、率直な感想は、「作った労力の割に、得るものは少ない」(当ブログ記事”「森友問題」問題の土地の評価額等の変遷の簡単なまとめ(2018/06/12)”)だった。ある程度一貫していると思えば、飛び抜けた評価額があるなど、素人からすれば、鑑定士の専門家としての信頼性に、率直な疑義を持ったのは確かだ。

ただ、大阪府不動産鑑定士協会が、このような疑義を持たれていることを認識し、信頼性の回復・向上を図るために、外部の専門家により調査を依頼し、その結果である報告書を公表したことには、敬意を表したい。

私は、不動産の専門家でも何でもない素人であるが、今回の調査報告書について、要旨をまとめたうえで、分かったことを整理したい。

公開:2020/05/17

今回公表され、参照したのは、

公益社団法人大阪府不動産鑑定士協会、会長 関野肇、”森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書の受領と今後の対応について”、令和2年5月14日。https://rea-osaka.or.jp/data/20200508-1.pdf(参照2020-05-16)

森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査委員会、”森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書(概要版)”、2020年5月14日。https://rea-osaka.or.jp/data/20200508-2.pdf(参照2020-05-16)

森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査委員会、”森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書”、2020年5月14日。https://rea-osaka.or.jp/info/documents/1589431927_0.pdf(参照2020-05-16)

[以下は、個人的な観点からのまとめであり、正確さに欠ける場合があります。]

「森友学園案件に係る不動産鑑定等に関する調査報告書」の要旨

本調査の概要

委員会設置に至る経緯

・社団法人大阪府不動産鑑定士協会が、当協会と利害関係を有しない外部の弁護士及び不動産鑑定士で構成する調査委員会を設置。
・森友学園への国有地売却を巡って不動産鑑定評価書等の信頼性が問題として取り上げられたことから、経緯や過程やその成果品などを調査・検討することにより、課題を提言、今後の業務に活かすとともに、信頼性の維持・向上を図ることを目的とする。

調査主体

委員長 大阪弁護士会所属弁護士
委員 大阪弁護士会所属弁護士、宮城県不動産鑑定士協会所属不動産鑑定士、仙台弁護士会所属弁護士・兼・宮城県不動産鑑定士協会所属不動産鑑定士

調査目的・調査の範囲・調査方法

平成27年1月16日付X鑑定評価書担当不動産鑑定士A書面による質疑応答
平成27年4月27日付X価格調査報告書担当不動産鑑定士A同上
平成28年5月31日付Y鑑定評価書担当不動産鑑定士B書面及び面談に応じる意思無し
平成28年8月10日付Z鑑定評価書担当不動産鑑定士C、Dヒアリングを実施
報告書の「第1 本調査の概要」、「3 調査目的・調査の範囲」の1(原文は丸数字)[同上、p1(PDFページ8)]と、「5 調査方法」[同、p2(PDFページ9)]の内容を表にした。なお、「本報告書は 、各担当不動産鑑定士の懲戒相当性を検討するものではないことから 、 担当不動産鑑定士等の名称を匿名としている。」[同上、(概要版)、p3(PDFページ8)]

・関係者の法的責任や懲戒相当性等の有無や検討を目的とするものではない

調査期間

2019/11/22~2020/05/13

質問状の送付

近畿財務局:調査期間内に回答は無かった
森友学園の当時の代表者:書面による回答が得られた

X鑑定評価書及びX価格調査報告書に関する調査の結果

価格調査業務の受忍について

(問題点)
不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査を行った。

(妥当性)
価格等調査ガイドラインは、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行うことを原則。不動産鑑定士は安易に不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査業務として引き受けるべきではない。

(今後の取り組み)
ガイドラインの事項に該当するか具体的に検討すべき。

成果物の性格等に関する 調査価格等の近傍への表記について

(問題点)
不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価とは結果が異なる可能性がある旨の記載の欠如

(ガイドラインの定めとX価格調査報告書の記載)
ガイドラインは近傍など分かりやすい場所に記載するものとするとしている。X価格調査報告書もこれを記載すべきであった。A不動産鑑定士も、もっと気を配って記載するべきだったと回答。

(今後の取り組み)
記載することを徹底。誤信して利用することのないよう、十分留意。

「正常賃料」の記載について

(問題点)
調査価格等を「正常賃料」と記載したことの妥当性。

(実務指針の定めとX価格調査報告書の記載)
実務指針によれば、鑑定評価基準に則らない価格等調査においては正常賃料と表記するのではなく、誤認しない方法で記載するべき。

(今後の取り組み)
鑑定評価基準に則らない価格等調査においては 、「正常価格」等の鑑定評価基準に定める価格等の種類の表示は行わないよう徹底。

小括~不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査における今後の留意点

・価格等調査ガイドラインの順守を徹底
・会計検査院は、事後的に行った検証においてさえもガイドラインについて触れられていない
・正常賃料の記載が例外なく許されなくなったことについて周知が徹底されていなかった
・不動産鑑定士は速やかに改正に対応することが求められる

賃貸借期間50年とする価格調査の依頼について

(問題点)
近畿財務局は、5か月弱の間に、同一の不動産を対象として、賃貸借契約の条件が変更した鑑定を依頼。しかし近畿財務局は、実際には変更を設定していなかった。

(経緯とA不動産鑑定士の認識)
近畿財務局は、軟弱地盤の状況を評価に反映させるために、変更の予定が無い期間50年間の一般定期借地権を想定。実現性が無いことから通常は許されない。他方、A不動産鑑定士が認識していたとまでは認めることはできない。

(対応の在り方)
計画変更の信憑性を不動産鑑定士が判断することは困難であることが多い。しかし、依頼者がたとえ公的機関であっても、具体的予定のない計画変更を前提とした鑑定依頼をする可能性があることが明らかになった。依頼者に明瞭に確認し、受任の都度、確認書を交付することを徹底するよう努めるべき。

仕様書及び鑑定評価書等における「最有効使用」の記載 について

(問題点)
不動産鑑定評価におけるものと、近畿財務局の仕様書に記載された「最有効使用」の定義。

(「最有効使用」の概念)
不動産鑑定評価基準において「最有効使用」とは、賃貸借契約の条件に影響を受けない更地としての使用方法を指す。したがって、「最有効使用」が定期借地権に基づく制約を受ける条件下で使われている近畿財務局の仕様書は、相当でない。

(検討)
「最有効使用」の用法の違いが、本件では、鑑定評価額への影響は確認できなかった。しかし、安易な拡大解釈を許容してしまうと、結論自体が説得力を持たなくなる。統一見解を示す必要があり、協議する等のしたうえ、結果を公表されたい。

契約条件(借地期間等)の変更と地域分析の関係について

(問題点)
同一価格時点における同一不動産の鑑定評価等において異なる内容の地域分析結果となることが相当であるか。

(地域分析のあり方)
A不動産鑑定士は、「標準的使用」については、賃貸借契約の期間の長短によって変容することを前提としている。当委員会としては、借地借家法は私法であり、影響を受けないと理解すべきと考える。それぞれ峻別して分析がなされていれば、問題はなかった。

(検討)
協議する等したうえ、結果を公表されたい。

Y鑑定評価書に関する調査の結果

鑑定評価額のほかに意見価額の記載があることについて

(問題点)
鑑定評価書において鑑定評価額以外に意見価額の記載ことが相当であったか。

(意見価額の記載について)
当委員会では、B不動産鑑定士や近畿財務局から説明を受けることができなかったことから、依頼者のプレッシャーが働いたのか明確にならなかった。
参考事項を記載すべきとする基準の解釈を明確にしたものを見つけることができなかった。

(意見価額を記載したことの妥当性)
B不動産鑑定士は、依頼者が示した概算額には依頼者側の推測に基づくものが含まれ、不動産鑑定評価においては不適当であったことなどから、活用できなかった。そうであったなら、鑑定書の信頼性を確保するため、信頼性に欠ける部分がある旨を明記すべきであった。

(影響)
大きな影響を与えたことは明らか。意見価額は、予定価格の決定に「利用」された。

(今後の取り組み)
明確な対応方針が示されておらず、その取扱いが曖昧なまま。その意味を検討し、明らかにすべきである。

Z鑑定評価書に関する調査の結果

鑑定の依頼目的の確認及び対象確定条件の設定について

(問題点)
対象不動産は小学校の用地として使用されることが予定されていたところ、資産評価の参考とするために独立鑑定評価を行ったことが相当であったか。

(独立鑑定評価を行うことの妥当性)
更地としての鑑定評価(独立鑑定評価)を行うことが適切であったかは疑問。C・D不動産鑑定士は、なぜ必要なのか詳細に聴取すべきであった。

(検討)
依頼者の要請に安易に応じて独立鑑定評価を行うことは許されない。連合会と協議する等したうえ、検討結果を公表されることを期待。

買戻特約付き不動産の鑑定評価について

(問題点)
買戻特約に関する記載はなく、売買価格や買戻価格が考慮されたことをうかがわせる記述がない。

(買戻特約の記載)
独立鑑定評価を行っていることを前提とすれば、考慮しないとしても直ちに不合理ではない。
ただし、専門職業家としての注意を払わなければならず、比較的直近の売買価格が10分の1程度であったことについて、慎重に検討すべきであった。その乖離を認識していた以上、言及すべきであった。
十分な説明責任果たさずに独立鑑定評価を行ったことは相当でなかったと判断。

地下埋設物の有無に対する言及について

(問題点)
土地の個別的要因に、「地下埋設物の有無及びその状態」の記載がされていない。

(記載について)
C・D不動産鑑定士は、当時は書式の統一ができておらず、その項目がなかったからであり、あえて省略したものではないとする。土壌汚染や埋蔵文化財の有無については豊中市役所に赴くなどして調査検討したが、地下埋設物の有無は特段の調査をしていない。
しかし、「地下埋設物の有無及びその状態」は、調査し、その結果を記載すべきである。

(今後の取り組み)
これらの記載すべき項目が適切になされていれば、不信が生じる結果は回避できた可能性がある。細心の注意を払うことを期待する。

対象不動産に関与した不動産鑑定士による鑑定評価の是非について

(問題点)
審議会の委員である不動産鑑定士による鑑定評価。

(法令等違反について)
法律や基準に明確に反するものではない。
しかし、信頼確保の観点から慎重に検討すべきで、安易に引き受けるべきではなかった。

(今後の取り組み)
法律や基準に明確な指針がないため、受任を見合わせるべきである、といった具体的な基準が設けられることが望ましい。

提言

本件の各鑑定評価書等に共通するのは、何れも意図的とは断定できないが、依頼者側の意向に沿うかたちで鑑定評価書等が作成され、結果として各成果品が依頼者に都合良く利用され、あるいは利用される恐れがあったという現実である。

同上、報告書。p45(PDFページ52)。

[以上、上記報告書及び(概要版)からの個人的なまとめ。一部表記を変えたり、省略をしてありますので、正確な内容は、原典に当たってください。]

(感想)

私は、不動産の専門家でもなければ関係者でもないので、報告書を読むのは骨が折れると思っていたが、比較的スムーズに読めた。

もちろん、私も知らず知らずのうちにこの問題の背景を理解しているからでもあるが、当報告書が、問題意識と言及できる範囲を明確にしているからだろう。

報告書は、

(誰が)大阪府不動産鑑定士協会が
(なぜ)森友学園への国有地売却を巡って不動産鑑定評価書等の信頼性が問題として取り上げられたから
(何のために)今後の業務に活かすとともに、信頼性の維持・向上を図るために
(誰に)外部の専門家に
(どうやって)経緯や過程やその成果品などを調査・検討することにより
(何をする)報告書をまとめ提言する。

のように、目的がはっきりしており、また、調査対象も明示してあり、強制調査権限を持つものではないことも断っている。

その明示された条件下で報告書が書かれているため、個人的には、過不足にも感じなかったし、書き過ぎだとも感じず、第三者の専門家が書いたものとして、十分納得のいくものに思えた。

報告書は満足のいくものだったが、残念だったのは、調査委員会に対して、

近畿財務局とB鑑定士が調査に応じなかった

ことだ。

強制力がなく、懲戒処分を目的としたものではないのにもかかわらず、信頼性向上のための調査に協力しないのは、自ら信頼を貶めるものであり、失望を禁じ得ない。この両者は、弁明するつもりがあるのならぜひ聞かせてもらいたい。

調査報告書では、あくまで、不動産鑑定の信頼の向上を目的としているため、不動産鑑定以外のことについては、基本的には問題を追及していない。

ただ、ところどころで、言外に、会計検査院や近畿財務局の対応を批判しているとも受け取れる箇所がある。

たとえば、一つは、

X価格調査報告書には価格等調査ガイドラインに抵触すると考えられる記載が複数あるところ、会計検査院が事後的に行った検証においてさえも、価格等調査ガイドラインについて触れられていない

という指摘だ。[同報告書。p14(PDFページ21)]

報告書では、この点を「まだ十分に周知されていない証左」[同]として自己反省しているが、むしろ、

会計検査院は、二度の調査に渡ってこの程度のことも認識していなかった

という叱責と受け止めるべきだろう。

また、もう一つは、

本件は例外的な場合であるかもしれないが、悪意ある依頼者が皆無とは言えない

という指摘だ。[同。p17(PDFページ24)]

これは、報告書では、鑑定士に対して、依頼者の説明を漫然と受け入れるなとの忠告をしているのだが、むしろ、このケースの依頼者である近畿財務局が「悪意ある依頼者」であることを示唆している。ほかにも、「たとえ依頼者が公的機関であっても」[同。p18(PDFページ25)]など、この件では、近畿財務局が信頼できない存在であると示唆しているような表現が複数見受けられる。

今回の調査報告書は、大阪府不動産鑑定士協会が依頼した調査委員会により、森友学園案件に係る不動産鑑定等に関した問題点が調査され、信頼回復・向上のための提言が行われている。第三者の専門家としての具体的な内容であり、この提言を実現することを切に期待したい。

一方、この報告書の提言対象ではないものの、近畿財務局と会計検査院は、悪意ある依頼者であり、不十分な調査しかしてこなかったことも明らかになった。

近畿財務局及び会計検査院は、信頼を回復する意思があるのなら、再調査をするべきだろう。

森友問題は終わっていない。


過去の考察のカテゴリーはこちら→「森友問題」考察


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