高校野球の臨時代走、ソフトボールのテンポラリーランナーについて

スポーツ競技では、いろいろな理由からルールが改正される。

競技をより面白くするため、選手の安全を守るため、試合時間の効率化を図るため、テレビ中継などの商業的理由のため、戦力の均等化を図るため、特定のチームを有利にするため、・・・。

様々な理由から、競技のルールは変わる。

「強いものが勝つのではなく、変化に適応したものが勝つ」

この、元の意味から変化していった言葉の通り、新しいルールに適応したものが、勝者の権利を持つ。

ここでは、高校野球での「臨時代走」、ソフトボールでの「テンポラリーランナー」、これらの、比較的新しく、似て非なる二つのルール規則について、説明したい。

[追記:当記事を元に、テンポラリーランナーについてより詳しい説明(テンポラリーランナーの走者としての個人成績、対象になる打順の範囲等)を加えた記事は、「高校野球の臨時代走」と「ソフトボールのテンポラリーランナー」の違いについてを参照]

1.高校野球での臨時代走

高校野球では、野球として基本的に共通するルールのほかに、高校野球ならではの特別な規則が存在する。

プロ野球との差でいえば、高校野球では金属バットの使用が可能であることがよく知られているが、こういった規則は、

高校野球特別規則

として、決められている。

この特別規則の一つに、

臨時代走者

が存在し、次のように記述されている。

 試合中、攻撃側選手に不慮の事故などが起き、治療のために試合の中断が長引くと審判員が判断したときは、相手チームに事情を説明し、臨時代走者を適用することができる。この代走者は試合に出場している選手に限られ、チームに指名権はない。

公益財団法人日本高等学校野球連盟、”高校野球特別規則(2018年版)”。
http://www.jhbf.or.jp/rule/specialrule/specialrule_2018.pdf
(参照2018-04-25)

ここで注意したいのは、判断するのは審判員であり、臨時代走となる選手を勝手に選べず、規則で決まっていることだ。

2.ソフトボールでのテンポラリーランナー

多少偏見があるかもしれないが、ソフトボールは、

  • ピッチャーが下投げ
  • 離塁禁止

が特徴の、野球よりスモールサイズで行われる競技、というのが、一般的なイメージであろう。

その評価は別として、ソフトボールでは、ルールの改良が比較的、積極的におこなわれていて、

  • 故意四球の通告
  • 延長タイブレーク制度

といったルールは、ソフトボールで先に導入され、のちに野球でも導入されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/タイブレーク
(参照2018-04-27)

前置きが長くなったが、ソフトボールの「テンポラリーランナー」は、高校野球での「臨時代走」と似ているように見えるが、内容は全く別物で、ルールブック上の説明は以下のようになっている。

1-69項 テンポラリーランナー TEMPORARY RUNNERとは、捕手が塁上の走者となっていて二死となったとき、あるいは二死後、捕手が出塁し、走者となったとき、捕手の代わりに走者となる選手のことである。テンポラリーランナーと交代させるかどうかは、攻撃側チームの選択である。
テンポラリーランナーは、塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者とする。

公益財団法人日本ソフトボール協会、”2018 オフィシャルソフトボールルール”、公益財団法人日本ソフトボール協会。2018年2月1日発行。p.22。

ここで注意したいのは、テンポラリーランナーは、

  • 捕手が走者となったとき
  • 二死
  • 交代するかどうかは攻撃側チームの選択
  • 交代して出る走者は「塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者」

といった決まりがあることである。

3.臨時代走とテンポラリーランナーの違い

ここまでくれば、両者が全く別の制度であることが分かる。

両者ともに共通するのは、攻撃中にいったん走者が変わるが、一時的な処置であり、次の守備には走者の交代がなかったことにされて再び守備につくことができる、という点だ。だが、その目的と仕組みは異なっている。

高校野球の臨時代走は、

  • 不慮の事故が起こって治療で時間が掛かりそうなとき
  • 審判の判断で
  • 投手を除いた選手のうち、その時の打者を除く打撃を完了した直後の者

ソフトボールのテンポラリーランナーは

  • 攻守交替時にキャッチャーの道具の準備に時間が掛かるのを短縮するため
  • 二死で捕手が走者となった場合のみ
  • 攻撃側チームの判断で
  • 塁上の走者以外の選手で、打順が最後に回ってくる者

となる。

この両者を比較すると、臨時代走が審判の判断であるのに対して、テンポラリーランナーは攻撃側チームの判断で選択できる点で、大きな違いがあり、選択権があるないということでは、戦略的な意味では、選択肢のあるテンポラリーランナーの方が、重要な意味を持つ。

(話は変わるが、ソフトボールに高校野球の「臨時代走」の概念がないわけではなく、ソフトボールには、「代替プレイヤー」の決まりがあって、治療等の間に、ラインナップに入っているプレイヤー以外であれば、すでに退いた選手を含めたどのプレイヤーでもそのイニングのみ代わりに出れる規則がある。)

(また、違いという点では、高校野球の臨時代走が「投手を除いた」となっているのに、テンポラリーランナーにはその制限がない、といったところもある。これは、ソフトボールが打撃専門のDP(野球でいうDH)というルールが、通常のルールとしてあるためだと考えられる。)

4.ソフトボールのテンポラリーランナーの戦略性

テンポラリーランナーを使うかどうかは、攻撃チームに選択権があるが、戦略として使うには難しいように思える。というのも、「二死」、「捕手が出塁」、「代わりのランナーになる選手」、の条件が決められているからだ。

これを前もって想定することはできなくはないが、実際に、二死の場面で捕手が出塁し、かつ、その時にテンポラリーランナーになる選手の可能性を想定することは、確率として、かなり難しい。その時点で走者になっていない、という条件も考慮に入れなければならないからだ。誰になるかわからないテンポラリーランナーを想定して打順を組む、というのは、確率が悪すぎるし、優先順位は低い。

あくまで、捕手が二死後に走者になったとき、その時のテンポラリーランナーと天秤にかけ、どちらが有利かを判断して選択する、というレベルが戦略の限界だろう。

ただ、テンポラリーランナーのルールは、当初、捕手の(塁上に出ていない)前の打者と決められていたが、改正されて、二死になった時点で塁上の走者ではない打順が最後に回ってくる者、になった。

このことは、より選択肢を増やすことになった。

典型的な例を挙げると、一死1塁(走者捕手)で、打席に俊足の打者の場合。
この時、打者が送りバンドを成功し、二死2塁になったら、そのまま、テンポラリーランナーを利用して、俊足の走者に代えることができる。

一死1塁からの犠牲バントは、効率の悪い面もあるが、

  • バンド成功率の高い俊足の打者
  • 上手くいけば一死1・2塁
  • 犠牲バント成功で二死2塁になったら、その俊足の打者がそのままテンポラリーランナーとして得点圏走者に入れ替われる

といった一定程度の確実性を持った戦略を考慮できるようになった。

これは、テンポラリーランナーをコントロールできる数少ない例として、有効であろう。

もちろん、捕手が俊足の選手であれば、テンポラリーランナーを選択する必要のない話だが、そうでない場合は、選択肢の一つとして、作戦の幅が広がる可能性を秘めている。

まとめ

  • 一見同じように見える「臨時代走」と「テンポラリーランナー」の違い
  • 高校野球の「臨時代走」はけが人の代わり、ソフトボールの「テンポラリーランナー」は捕手の準備の時間短縮のため
  • 「テンポラリーランナー」の戦略性は偶然性が高いため、戦略として考慮する優先順位は高くない
  • ただし、一死1塁(走者捕手・バッター俊足の打者)の場合は、バンドをして、二死2塁にして二塁ランナー・捕手とアウトになった打者がテンポラリーランナーとして入れ替わる作戦もアリ

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